嘉瀬町百景#9 虫供養塔(扇町)

嘉瀬公民館

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扇町に佐賀市重要有形民俗文化財があるときき、行ってきました。虫供養塔です。

貞享2年(1685年)11月19日
為 五穀満田虫供養成就
(碑面より)

虫供養塔(1).jpg
佐賀藩第二代藩主鍋島光茂の時代に、庶民により建立された塔です。県内唯一の虫供養塔で、当時の信仰習俗を知るうえで極めて貴重とされています。以前は近所の方の手により榊が上げられ清掃されていたそうですが、今は周囲に草が生い茂っていました。


虫供養塔(2).jpg


日本近世には「虫送り」(虫追い)の風習があり、全国的に流布していました。夏の土用の初め、もしくは田植えが終わった頃松明をともし鉦や太鼓で虫を地区の外へ送ります。農薬などなかった時代のこと、原始的な手法で害虫駆除を行っていましたが、昔の人は害虫にも霊魂があることを信じて供養を施し、送り場には塚を建てました。
(参考引用:『トンボと自然観』上田哲行編)

小説『八日目の蝉』(角田光代著)には、虫送りの様子がとても印象的に描かれています。松明を持って行進するこの行事のことは、実際に見たことはないけれどいつまでも記憶に残っている。



扇町の虫供養塔は、2メートルを超える立派なもの。全国的にみてもかなり珍しいものだそうです。この地の農業と人々を見守りながら、自然界への敬いを忘れてはならないと静かに伝えているように思えました。